2か月間が空きましたが、8冊目のご紹介はこちら。
『魔女の樹』不思議の森の樹木事典 サンドラ・ローレンス 著 堀口容子 訳

樹木と森の「不思議な関係」を描いた本
この本も、『世界の80の樹木の物語』の著者と同じく、ロンドン出身の作家兼ジャーナリスト、サンドラ・ローレンスが描いた、樹木と森の不思議な関係を説いた本です。
登場する樹木は50種以上。
それぞれの樹木が神話の中でどのように扱われてきたのか、魔法の世界ではどんな風に位置づけられていたのか。そして、実際に人々の暮らしの中でどのように役立ってきたのか。
そんな樹木と人との長い関わりが、世界各地の伝説や文化とともに紹介されています。
しかも、王立植物園キューガーデン所蔵の美しい絵画やイラストが随所に添えられていて、ページをめくるだけでも楽しめる一冊です。
森と樹木への、深いリスペクト
この本を読んでいて、何よりも強く感じたのが、著者の森や樹木に対する深いリスペクトでした。
樹木が持つたくさんの伝説やいわれを、少しでも多くの人に伝えたい。
そんな著者の想いが、文章のあちこちから伝わってくるのです。
50種以上の樹木と、世界中の森についての情報が一冊に詰め込まれているので、とにかく盛りだくさん。
読み進めていくと、文化の数だけ樹木の逸話が残されていることに気づかされます。
同じ樹木であっても、神聖な存在として崇められたり、薬や生活用品として利用されたり。
国や文化が違っても、樹木を特別な存在として見つめてきたという共通点にも気づかされます。
細かな情報の中に織り込まれたメッセージ
そして、この本のもうひとつの魅力は、単にたくさんの情報を並べているだけではないところ。
よくよく読んでいくと、細かな情報の中に、著者からのメッセージが織り込まれています。
基本的には、それぞれのテーマや樹木についての情報が紹介されているのですが、ときどきサブメッセージのように3~4文ほどで綴られている言葉があり、それが不思議と心に残ります。
情報として読むだけなら、さらっと通り過ぎてしまうような短い文章。
けれど、その数行に著者の樹木への想いがぎゅっと詰まっているように感じるのです。
まさに、樹木への想いが魔法のように効いてくる。
だから私は、この本そのものが「魔女の樹」なのではないかと思っています。
「森は世界で最も古くから聖地とされてきた」
本の中で、著者はこんなふうに書いています。
「森は世界で最も古くから聖地とされてきたところの1つです。
他にこれほど古いのは、森を流れる川や、森が覆う山々しかありません。
ほとんどの文化には聖なる森があり、開拓され、コンクリートで固められた現代社会でも、私たち誰もが何らかの形でそのイメージを持っています。
それは民話に埋もれた、半ば遠い記憶の中にある、もしかしたら私たちの魂に刻み込まれているのかもしれません。」
この文章を読んだとき、私はとても強く心を動かされました。
森を歩いていると、ただ樹木がそこにあるだけではない、不思議な感覚を覚えることがあります。
それは、私たちの祖先が長い長い時間をかけて森とともに生き、森を特別な場所として見つめてきた記憶が、どこかに残っているからなのかもしれません。
世界各地に残る「聖なる森」
さらに著者は、こんなことも書いています。
「世界の聖なる森は宗教上大きな意味を持ちますが、同時に、多くはその社会が保護する最後の地として絶滅の危機にある希少動植物の住処でもあります。
どこであれ、そういった土地の伝承は驚くほど似通っていることが多いのです。」
この言葉を証明するかのように、本の中にはインド、ギリシャ、ニュージーランド、ノルウェー、ナイジェリア、ガーナ、ポリネシア、中国……。
世界のさまざまな地域から見つかった神話や聖典、古代の森についての物語が登場します。
それぞれの文化はまったく違うはずなのに、森を聖なる場所として捉え、そこに特別な意味を見出してきたという共通点がある。
それが、とても興味深いのです。
世界中の森の秘密を覗いているような9つのテーマ
本は「古代の森」から始まり、次のようなテーマで展開していきます。
- 世界樹
- 季節の節目の儀式
- 管理された森
- 魔法の森
- 病気やケガの癒し
- 聖なる森
- 利口な女性の貯蔵室
- 魔境
- 希望の樹
こうして並べてみるだけでも、映画のストーリーを見ているかのように、ワクワクしてきませんか?
次々と紹介される樹木や森、そして人々との関わりの歴史を読んでいると、世界中の森の秘密を覗いているような、まさしく魔法にかかったような気持ちになります。
樹木のすべての側面を詰め込んだ「知識の宝庫」
樹木の神秘的な面。
私たちの暮らしとともにあった身近な面。
森に蓄えられてきた叡智。
魔術としての木。
薬としての木。
そして、未来への希望を託された木。
この本には、樹木が持つさまざまな側面が、ぎゅっとまとめられています。
まさに「樹木の知識の宝庫」といえる内容です。
しかも、それぞれのテーマに関わりのある樹木が登場するため、テーマを読みながら、樹木そのものの神話や歴史にも改めてクローズアップされていきます。
日本の樹木にも、思わぬ共通点が
この本は主にヨーロッパの文化についての紹介が多いと感じますが、ときどき日本や中国の文化も登場します。
これが、なかなか興味深いのです。
日本にもある樹木が、海外ではどのように語られてきたのかを知ると、思わぬ共通点に驚かされることがあります。
また、海外の著者が日本の文化や樹木を紹介するとき、私たちが普段当たり前だと思っていることが、海外から見るとどのように映るのか。
それも海外の植物関係の書籍を読む時の楽しみです。
そして、こうした世界各地の物語を読んでいると、人間と樹木との関係には、文化を越えた共通するものがあるのだと感じます。
一度では読み切れないからこそ
ひとつ難があるとすれば……
情報が多すぎて、一度ではとても読み切れないことです。
実際、この本の感想を書くのにも2か月かかってしまいました(笑)。
それくらい、読むたびに新しい発見があります。
だからこそ、この本は一度読んで終わりにするのではなく、手元に置いて、図鑑のように何度でも何度でも読み返すことをおすすめします。
そのときの自分が気になっている樹木やテーマによって、目に留まる場所も変わってくるはずです。
そしてきっと、読むたびに、著者サンドラ・ローレンスの樹木への熱い想いを乗せたメッセージの魔法に、じわじわと樹木愛を深められていくことでしょう。
『魔女の樹』には姉妹作品も
ところで、『魔女の樹』には姉妹作品があります。
『魔女の庭』『魔女の森』も刊行されていて、「魔女の森」ではキノコの世界が、「魔女の庭」ではハーブについて記されているようです。
樹木だけではなく、植物や森の世界が好きな方なら、思わずこちらも読んでみたくなるのではないでしょうか。
私も、この2冊が気になっています。
樹木を知ることは、人間の歴史を知ること
『魔女の樹』を読んで改めて感じたのは、樹木は決して「植物図鑑の中にある存在」ではないということ。
人間は、樹木を見上げ、森を歩き、木の実を食べ、薬をつくり、道具をつくり、祈りを捧げ、神話を生み出してきました。
世界中のあちこちに残る樹木の物語をたどっていくと、そこには必ず、人間の暮らしや文化、そして自然に対する畏敬の念があります。
そう考えると、樹木のことを知るということは、樹木そのものだけではなく、人間がどのように自然と関わりながら生きてきたのかを知ることでもあるのだと思います。
そして、この本が伝えてくれるのは、そんな長い時間を生きてきた樹木たちへの、著者からの深い敬意なのかもしれません。
樹木が好きな方には、ぜひ手元に置いて、何度もページをめくってほしい一冊です。


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